※本原稿は、Business Journal2016年3月4日号に掲載されました。
2011年の東日本大震災以来、再生可能エネルギーの必要性が叫ばれて久しい。原子力に代わる発電手段として太陽光や風力などが注目されてきたが、昨今は原発再稼働の動きが活発なため、再生可能エネルギーへの注目度が下がってきている。
そんななかでも、全国に4000件以上と着実に産業用太陽光発電の設備を増やし続けている会社がある。それがアースコムだ。売り上げも33億円超で、前年比232%、4期連続増収増益と堅調である。産業用太陽光発電の会社としては全国トップレベルで、本社がある埼玉県に所在する全業種の中で売上高は第2位、しかも県の産業労働部より「経営革新計画承認企業」「多様な働き方実践企業」と認定されている超優良企業だ。
太陽光といえば近年、設備の近隣トラブルや契約不履行トラブルなどがたびたび報道され、マイナスイメージを抱く人もいるかもしれない。だがアースコムは、掲載において審査が厳しいといわれる総合情報誌「Wedge」(ウェッジ)で、太陽光発電メーカーとして初めて紹介されたのをはじめ、テレビなどさまざまな媒体でも取り上げられ、業界で今もっとも注目される企業となっている。
なぜアースコムは顧客から信用され業績を伸ばすことができたのか。今回、その秘密を探った。
大胆な事業転換
丸林信宏氏は08年、住宅販売業としてアースコムを起業した。住宅販売の傍ら、住宅に設置する太陽光発電も顧客に勧めてきた。顧客のエコに対する意識が高まっていることを感じ取っていたからだ。時代の後押しもあり、太陽光の需要は大きくなり、個人宅への設置も増えてきた。
11年、丸林氏はある重要な情報を目にする。それは国が太陽光発電による電力を固定価格で20年間購入するというニュースだ。そのニュースを見て丸林氏は、「これはとんでもなく大きなビジネスになる」と身震いしたという。すぐに事業内容の転換を決意した。住宅販売から産業用太陽光発電設備の販売という大胆な事業転換である。
「下手をすればすべてを失う決断でした。しかし、これから社会全体でも再生可能エネルギーの重要性が高まるのは間違いないと確信していましたし、お客様の太陽光に対する期待感が年々高まっていることは肌で感じていました。私のこの現場感が、このビジネスを実行すべきだと思わせたのです」(丸林氏)
類い希なビジネスセンスで、大胆な事業転換を成し遂げた丸林氏は、さらに重要な情報を得ることになる。いわゆる産業競争力強化法(生産性向上設備投資促進税制)である。この新たな法律は、質の高い設備投資に対し「即時償却」または「最大5%の税額控除」が適用できる税制措置だった。これが太陽光発電設備にも適用されたのだ。
「この税制措置によって、弊社の太陽光発電設備に投資するお客様が税務的に100%償却できるようになりました。税務上これほど良い条件がある発電設備はほかにありませんでした。これで一気に事業が伸びていくと確信しました」(同)
丸林氏の先見性により、産業用太陽光設備販売業は顧客の大きな支持を受け、さらに時代の大きなトレンドに乗って事業を急拡大していく。
丸林氏は大規模な産業用太陽光発電設備を、不動産のように分譲して販売する方法を編み出した。それによって、これまで大手企業しか参入できなかった太陽光発電の分野に、個人や中小企業の経営者でも参入できるように敷居を低くすることができた。
最大17.8%の高利回り投資となる
さらに、産業競争力強化法の税制措置(100%償却は16年3月末日まで、以降は50%償却)を組み合わせることにより、経営者や富裕層の節税対策としての投資物件としても好評となっていく。
「国が20年間固定価格で買い取りをしてくれるということで、太陽光の投資に対する利回りが計算できるようになります。つまり、発電した電力を電力会社に売ることで得られる利益の20年間の合計と、設備への投資金額の比較をすれば、年利何パーセントになるかが計算できるのです。
さらに100%償却できるというメリットを勘案すると、最大17.8%という高利回りも期待できます。このような投資物件は、ほかにないということが広く知られ、弊社が注目されるようになったのです」(同)
アースコムの顧客は中小企業の経営者や富裕層が多く、上場企業の役員なども名を連ねている。投資に対して厳しい目を持つ人たちが、なぜ同社を選ぶのか。その理由を探ってみると、この業界特有の事情が関係していることがわかってきた。
先に述べたように、太陽光発電についての悪いニュースも少なくない。全国には現在1万2000社を超える太陽光発電設備販売の会社がある。なかには詐欺行為を行う会社も少なくないという。
11年、民主党政権時代に再生可能エネルギーを普及するための施策が打たれるようになった。その際、参入障壁を低くするためにルールを甘く設定したことが、後の太陽光設備に関するトラブルを引き起こす一因となっている。
インターネットを使って申請をしやすくしたため、設備予定地として地主に許可も取らずに土地を申請する業者が後を絶たなくなる。許可が出ると、その「権利」を高額で販売するのだ。もちろん地主に許可を取っていないため、実際に太陽光発電設備を建設することはできず、裁判に発展している事例も多い。
さらに詐欺を働いたうえ、計画倒産をして逃げ切ろうとする悪徳業者もあるという。このような詐欺行為の数々は、太陽光発電のイメージを著しく落としてきた。しかし、近年はそれも変化しつつあるという。
「法律の規制も強くなり、またこのような詐欺行為が周知されることで、悪徳業者が淘汰されてきました。それでも法律の網をかいくぐり詐欺行為をする会社もありますが、逆にそういう状況だからこそ、弊社のように真っ当な会社が目立つようになったともいえます。
実は、恥ずかしながら、弊社もかつて悪徳業者に騙されたことがあります。太陽光に最適な土地を保有していると説明された会社から物件を購入したのですが、蓋を開けてみれば設備建設が行われず、大金を騙し取られました。その痛い経験は、弊社のお客様への真摯なサービス体制へと反映させていいただいています。この業界の痛みを知るからこそ、お客様を守っていきたいと強く思うのです」(同)
悪徳業者に騙されないように情報を細かく提供
林氏自身が味わったつらい思いを顧客にさせたくないと、アースコムは他社ではほとんど行われていない2つの施策を実施している。2つの冊子を用いた丁寧な説明だ。
ひとつは「リスクブック」である。この冊子には、産業用太陽光発電のリスクが8項目に整理して説明されている。発電量が変化するリスクや利回りのリスク、国の買い取り価格の下落リスクなど、およそ悪徳業者では絶対に開示したくないリスクをすべて解説している。そしてそれらのリスクに対するアースコムの対策も詳細に書かれている。
極めつけは巻末にあるチェックリストである。15項目に及ぶチェックリストを設け、すべてのチェックリストがクリアされているのであれば他社製品でもお薦めします、というのだ。それだけ自社製品に自信があるという表れだろう。
もうひとつは「メンテナンスブック」である。発電設備を購入した顧客とは、20年間の付き合いをしていくことになる。その間、メンテナンスを行わなければ発電量が下がり、当初予定していた利回りも確保できなくなる。それを回避するため、リコーの子会社でIT機器等の販売・保守を行うリコージャパンの協力で24時間の監視体制を整えた。ウェブカメラも設置し、顧客は自分のパソコンやスマートフォンで設備の状態をいつでも確認できる。さらに発電量も常に報告される。
定期メンテナンスも行われ、万が一設備にトラブルがあれば48時間以内に全国どこでも保守要員が駆けつける。「これが他社にできないことなのです」と丸林氏は胸を張る。
「太陽光発電は、当初メンテナンスフリーというイメージで登場しました。つまり、太陽光発電はメンテナンスもしなくても、ずっと安定的に電力が供給されるという謳い文句だったのです。しかし現実はそうではなく、メンテナンスをしなければ確実に発電量は下がります。悪徳業者は、これを絶対に言わないのです。楽して儲けてメンテナンスもせずに逃げ切ろうと考えている業者が多すぎます。これは今後大きな訴訟問題となるでしょう」(同)
アースコムを信用して電話ですぐに申し込む人も多いという。「だからこそ丁寧な説明が必要なのです」と丸林氏は語る。
「弊社では、対面でご説明することを原則としています。潜在的なリスクを認識されていないお客様もいらっしゃいますので、十分ご理解いただけるまで、とことんお話しさせていただきます。ご来社いただいて、会社の姿勢をご覧になって、ご希望であれば太陽光設備の現地にもご案内いたします。『詳しい話はいいよ』と言われるお客様にも、必ず『リスクブック』と『メンテナンスブック』をお渡ししています」(同)
アースコムのきめ細やかなサービス提供は、人から人に評判が伝わり、現在はほとんど営業をしなくても口コミで顧客が広がっているという。実に理想的なビジネスである。
従業員の働きやすい環境整備
またアースコムは、従業員に対する姿勢も高く評価されている。「多様な働き方実践企業」として認定されたほか、いわゆる「ウーマノミクス」への取り組みも積極的だ。
「弊社は女性社員が多く、女性が働きやすい職場環境に力を入れています。子育て中の女性が働きやすい環境を重視することで、独身女性にとっても働きやすい環境になるよう心がけているほか、女性管理職の育成も行っています。また、家族手当や母子家庭手当、出産手当、バースデー休暇、結婚記念日休暇、9日間連続有給休暇を採用して、仕事とプライベートをともに充実してもらうように意識しています」(同)
取材している最中、18時に「お疲れ様でした」という女性の声があちこちから聞こえたかと思うと、一斉に全社員がいなくなった。副社長の丸林綾子氏は、「今日はノー残業デーなんです。『1秒でも残っていたらダメよ』と普段から言っていますから、みんな一斉に帰ったんですよ」と笑顔で語った。
さらに副社長は、こんなユニークなエピソードを語った。
「近所のコンビニエンスストアで、いつも対応が良くてお気に入りの女性店員さんがいたんです。仲良くなって話を聞いてみると、親御さんのために一生懸命働いているということでした。ある時、その店員さんがお店を辞めると聞いたので、私はすぐに『うちの会社で働いて!』とその人に声をかけました。驚いた顔をしていましたが、本当に弊社の社員になってくれたんですよ。
その女性が最近、大きな取引をまとめてきました。ベテラン社員でも驚くような大口顧客からご契約をいただいたのです。お客様に聞いてみると、『真面目で細やかな対応に感動して、この人なら信用できると思ったので契約しました』と言ってくださったんです。私の目に狂いはなかったと思いましたね。本当に素晴らしい女性が入社くれて感謝しています」
そこで、その「大口顧客」にも取材をしたところ、確かに副社長が語ったとおりだった。「女性活用」というお題目を唱える企業は多いが、アースコムほど徹底したところは少ないだろう。同社は今後、社内に託児所を設けるなど、さらなる対応も考えているという。
アースコムの取材を通して、新しい産業の混沌とした現状と、そこからビジネスの王道で突き抜けていく企業姿勢の重要性をあらためて認識させられた。頭ではわかっていても、それを実践できる経営者は極めて少ない。それを淡々と実践し続け、成功している理想像を垣間見た。