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貧乏で小学校中退の松下幸之助、なぜ成功しパナソニックを世界的企業へ?

※本原稿は、Business Journal2016年5月18日号に掲載されました。

成功する人と、そうでない人との違いはどこにあるのだろうか。

ビジネスに真剣な人ほど、「成功する人の考え方」に興味を持つだろう。あやしい自己啓発のノウハウが氾濫する昨今において、今なお不動の成功法則として支持されている考え方がある。それが故松下幸之助氏の教えである。

松下氏は、説明するまでもなく松下電器産業(現パナソニック)の創業者であり、現在でも多くの経営者から「経営の神様」と尊敬されている。その松下氏が伝えてきた成功法則とはどういうものだったのだろうか。松下氏から直接薫陶を受け、その教えから「陽転思考」を見いだした人物がいる。小田全宏(おだぜんこう)氏である。

小田氏は東京大学法学部卒業後、松下氏が設立した松下政経塾に入塾。松下氏から直接指導を受けながら一貫して人間教育を研究してきた。現在は全国の企業で陽転思考を中心とした講演と人材教育実践活動を行っている。また、ビジネスパーソンと経営者のEラーニングスクール「ウィズダムスクール」において、自身の活動の集大成となる講座『陽転思考の人間学講座(全48講座)』を開講している。

今回、小田氏から許可を得て、この講座で紹介されている松下氏の教えを紹介する。

松下氏は84歳の時に、次世代の国家指導者を育成するための公益財団法人として「松下政経塾」を設立する。小田氏は4期生として入塾した。入塾の面接にて初めて松下氏と対面した小田氏は、松下氏の印象をこう語る。

「松下氏は小柄な方でしたが、優しさと圧倒的な存在感がありました。とてもこの人には嘘をつけない、そう感じました」

塾生となった小田氏に対して、松下氏は思いがけない言葉をかける。

「吉田松陰先生の松下村塾からは多くの幕末の志士が世に出た。松陰先生という師匠がいたからだ。しかし、松下政経塾には師匠、塾長はいない。君は塾生でありながら塾長だと考えなければいけない」

意外な言葉に驚く小田氏に対し、松下氏はさらに続けてこう言った。

「塾生だという気持ちでいたなら、『教えてもらう』『リーダーにしてもらう』という受身の姿勢になる。次世代のリーダーになろうという人物がそんな意識ではだめだ。だから自ら塾長であるという考え方が重要なのだ」

塾生からみれば、リーダーになるための知恵を教えていただきたいという姿勢になるのは当然である。リーダーになるための教えを受ける前から「リーダーであると思え」と松下氏は説いたのだ。この松下氏の言葉には、松下流成功法則の神髄がある。

確実に利益を生む「ダム式経営」とは?

小田氏は、松下氏が推奨した「ダム式経営」に関するエピソードを紹介しつつ、松下氏の真意を解説する。

ある講演会で松下氏が「ダム式経営」について講演を行っていた。ダム式経営とは、経営に必要な人・モノ・金に余裕を持った経営をする方法である。

工場を例にとって説明しよう。工場で機械が100%動いていなければ利益が出ないようでは、何かがあればすぐに利益が出なくなる。そうではなく、80%稼働でも利益が出るようにしなければならない。人も同様だ。社員の80%が働けば利益が出るようにすると経営に余裕が出る。銀行から融資を受ける時にも、返済に余裕があるようにする。これがダム式経営である。

しかし、松下氏のダム式経営の講義を聞いていたひとりの経営者が、松下氏にこう言った。

「うちの会社は人も金も汲々としている。松下さんのような大企業はダム式経営ができるかもしれませんが、我々のような小さな会社がダム式経営をできるようにするにはどうすればいいのですか?」

松下氏はしばらく考えて、こう答えた。

「どうしたらダム式経営ができるようになるのか、方法論は私にもわからない。しかし、そうなりたいと強く思うことが重要だ」

実に狐につままれたような答えだが、ここにこそ松下氏の真骨頂があると小田氏は言う。

悩みは常にひとつ

「コップの中に水が半分あるとしましょう。ある人は『半分しかない』と思い、ある人は『半分もある』と考えます。事実は変わらないのに、とらえ方ひとつで見え方が変わるのです。松下氏がおっしゃったことは、まさにこのことです。

松下氏はいつも、『悩みはひとつしかない』と言われていました。人はいくつもの悩みを抱えているようで、実際は同時に複数の悩みを考えることはできず、一度にひとつのことしか悩んでいないのです。あることに悩んでいたとしても、別の悩みが新たに出てくればそれに気を取られてしまいます。つまり、人は常にひとつのことしか集中できないのです。

いつも頭から悩みが消えないという人は、悩みを打ち消すような強い思いを持っていないからです。松下氏は、強い思いを持つことで何事も成就できると説いていらっしゃいました。強い思いがあれば、悩みも消えていくのです。それを私は陽転思考と呼んでいます。

こうなりたいという強い思いを持てば、方法論は無限に出てきます。松下氏は、それが言いたかったのです」(小田氏)

ある日、塾生のひとりが「ご自身は、なぜ成功したと思いますか?」と聞いたところ、松下氏はこう答えた。

「貧乏で学歴もなく、体も弱かった。だから成功した」

松下氏は貧しい家庭で育ち、学歴も小学校中退。健康状態も毎年10月から3月まで風邪で床に伏せるほど常に悪かった。だからこそ成功したというのだ。普通ならば成功しない理由として挙げられるような要因が、自分を成功に導いたという積極的な考えだ。

貧しかったからお金の価値がわかった。学歴がないから自分より優秀な人の力を借りた。健康でなかったから人に任せるしかなく、結果的に部下が育った。

禍を転じて福と為す。まさに、これが陽転思考である。

さらに小田氏は、松下氏が成功した理由のひとつに、「運の良さ」を挙げる。松下氏は運を非常に大切にしていたという。成功する見込みのなかった松下氏が世界企業をつくり上げたその過程には、数々の幸運があったのは事実だ。しかし、一見つかみ所のない運を成功の要素と考えることは、普通は難しい。

その背景にはどんな考えがあったのだろうか。次回は、松下氏が経験から導いた「運のつくり方」を紹介したい。

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この記事を書いた人

思考力研究所所長、ビジネス・コーチ、ビジネスプロデューサー、一般社団法人「日本経営コーチ協会」アドバイザー
著書:100の結果を引き寄せる1%アクション他多数

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