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縮小する結婚式市場、日本一に急成長した結婚式場情報サイトの秘密

※本原稿は、Business Journal2014年6月5日号に掲載されました。

アベノミクスの経済効果もあってか、景気回復の傾向が報じられている。一方で、業績が上向かず苦しい経営を強いられている企業も少なくない。そのような不安定な経済状況の中、着実に成長を続ける企業はどこに秘訣があるのだろうか?

縮小するウエディング市場で右肩上がりの成長

その会社の名前は、株式会社ウエディングパーク

聞きなれない社名だと思った読者も多いだろう。本当に優秀な企業は派手に目立たないものである。ウエディングパークは、結婚式場案内のクチコミ情報サイト「ウエディングパーク」を運営する会社である。

2004年にウエディング業界で初めて結婚式場の評判をサイトに掲載するクチコミサービスを開始し、14年4月に契約式場件数が1900件を突破した。媒体が異なるので単純比較はできないが、リクルートが発行する結婚情報誌「ゼクシィ」の式場掲載件数(1900件)を上回り、実質的に日本一の式場案内メディアとなったといえるだろう。

10年前、たった3人だった会社は、今では100名に迫る従業員を擁する日本最大のウエディング情報サイト運営会社となった。この3年間だけでも売り上げは230%、式場契約数は250%も伸びている。

この数字からウエディング市場が伸びていると勘違いしてはいけない。ウエディング市場は3兆円マーケットといわれるものの、近年は少子化の影響もあり縮小傾向にある。結婚スタイルの変化も市場に影響を与えている。いわゆる「なし婚」という、結婚式を挙げないカップルが増加し、年間婚姻件数約66万件のうち半分が「なし婚」になりつつあるといわれている。

市場が縮小すれば競争が激化し、会社の売り上げも減少するのが普通であるが、そのような中でウエディングパークは、10年間右肩上がりで成長し続けている。

「ウエディングパーク」は業界でいち早くクチコミシステムを導入し、式場の評判をユーザーの書き込みで見られるようにした。現在では40万件を超えるクチコミのデータ蓄積があり、他社に比べて圧倒的な情報量である。

この事実だけを見れば、最先端のIT技術が成長の要因に思えるだろう。もちろん、それもウエディングパークが成功した理由の一つだが、最大の理由が別にある。それは、IT企業という表の顔からはまったく想像もできない“超アナログ経営”である。それこそ「ビジョナリー・カンパニー」の真骨頂だ。理念とビジョンの共有を再優先とし、社員の団結力を優先させる経営である。

成長の要因は、社員の意識共有

同社の日紫喜誠吾社長は、日本一にまで成長した要因を次のように語る。

「3つの要因があったと思います。一つは、組織カルチャーの強化。もう一つは、全国営業直販モデル、そして経営者人材を育てたことです。とりわけ組織カルチャーの強化が当社を日本一にさせた要因だと思います」

ウエディングパーク社には、ビジョン、経営理念、行動規範が明確に設定され、社員全員がすべて頭に入れている。それは強制されたものではなく、社員が自然に共有する組織風土が醸成されている。

少し長くなるが、ウエディングパークのビジョン、経営理念、行動規範を見てみよう。

ビジョンは「21世紀を代表するブライダル会社を創る」

経営理念は「結婚を、もっと幸せにしよう」

行動規範は「TRUTH」という小さな赤い小冊子にまとめられている。そこには「幸せのための9つのピース」とした9つの行動規範が記載されている。

「TRUTH」は、社員全員が常に携帯し、9つの規範の中からお気に入りの1つを選び、それを日常の行動のベースとしている。

行動規範を手帳に印刷し社員に暗唱させる会社はどこにもある。しかしウエディングパークのそれはまったく異なるものである。

経営本部の瀬川由絵さんに「TRUTHをいつも持っているのですか?」と尋ねると、「はい。私が好きなのは“憧れになる”です」と嬉々として答えてくれた。他の社員にも同様の質問をすると、「私は“永遠のフェア”をモットーにしています」など、同様に楽しそうに答えた。

筆者はビジネスプロデューサーという職業柄、多くの企業と出会ってきているが、社員が行動規範を嬉々として答えるのは極めて希なケースである。これだけでも、いかに社員が理念を共有し、自分の仕事に誇りを持っているかがわかる。

ウエディングパークでは、毎朝9時に朝会を行い、社員の1分間スピーチの後、日紫喜社長のスピーチを行い、全員で円陣を組んでから一日をスタートさせるという。「理念や組織づくりに関する大切なメッセージ」を社長自ら意識し“言葉”によって伝え続けているという。

この何気ない朝の習慣によって会社の理念が浸透し、同じビジョンを共有することになっていると日紫喜社長は言う。この習慣を創業初期から続けているという。

継続は力なりというが、理念を共有する習慣の継続が、この会社のパワーを維持しているといえる。

一体感と団結力を有する企業

ウエディングパークには30名を超える営業組織がある。全国8拠点をベースに営業社員は全国どこにでも足を運ぶ。「式場があるならイカダに乗っても行く」という気概を持って、全国4000カ所ある式場に隈なく地道に足を運んでいるという。

ITに明るくない方々への勉強会も地道に実施し、「ウエディングパーク」の利便性やメリットを伝える努力を愚直に続けている。

筆者がウエディングパークを取材する前には、クチコミシステム等の最新IT技術が成功の秘密だと思い込んでいた。しかし、ウエディングパークの成長を支えているのは強力な人間力であり、地道な日々の営業活動の結果だったのだ。

営業は全国どこにでもたった一人で行くという。この原動力の根底には、会社の理念とビジョンの共有があるのはいうまでもない。

一般的に営業職が最も離職率が高く、会社の考えに共感できなければ辞めてしまうことが多い。しかし、ウエディングパークは営業職だけでなく会社全体の離職率が極めて低いという。

IT企業は離職率が高いという世間一般の思い込みも見事に覆している。

今年に入り、もう少しで式場契約数日本一になるという時、会社には「くす玉」が登場した。日本一になって「くす玉」を割ろう、という思いが社員全員をおおっていた。

全国に展開した営業から、Facebookや日報を通じて結果が報告される。その結果を受けて、システム部門やメディア部門の社員も「がんばって!」「もう少し!」と応援メッセージを送り続けた。

そして3月になった頃、日本一まで目前となり、会社の一体感はさらに強まった。誰もが毎日の営業報告に歓喜し、その高揚感が最高潮に達した瞬間、くす玉が割られた。

「ウエディングパーク」が日本一を達成した瞬間である。そして社員全員が成功体験を共有した瞬間である。

「この6月16日に10週年を迎えます。創業から数年間はクチコミサービスをご理解いただくのに苦労しました。決して順風満帆ではありませんでした。式場様からクレームをいただくこともありました。しかし、10年間粘り強くご提案させていただき、真摯に営業活動を続けさせていただいた結果、“信頼”を蓄積させていただき、多くの式場様にご契約いただけるようになりました。

ようやく日本一のウエディングメディアになりましたが、私どもはこれで足を止めるわけにはいきません。圧倒的な日本一になることを次の目標に設定しました。社員が幸せになる会社を追求しつつ、より幸せな結婚情報を提供できる圧倒的一番の会社を目指していきます」

日紫喜社長が目指す理想は、どこまでも高いところにある。その思いが、どこよりも一体感と団結力を有する「ビジョナリー・カンパニー」を育てているのだろう。

これからもウエディングパークの成長に注目していきたい。

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この記事を書いた人

思考力研究所所長、ビジネス・コーチ、ビジネスプロデューサー、一般社団法人「日本経営コーチ協会」アドバイザー
著書:100の結果を引き寄せる1%アクション他多数

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