※本原稿は、Business Journal2013年8月19日号に掲載されました。
唐突ですが問題です。
成功している人の思考の特徴とは、なんでしょう?
1.情報収集が秀でている
2.情報整理が優れている
3.情報発信力がずば抜けている
さて、どうでしょうか? 一瞬で気づいた人は、間違いなく成功者になれます。
では答えを言いましょう。答えは「情報を疑う」です。
「え? 三択にないですよ」と答えたあなた、よく問題を見てください。「次の三択から選んでください」と書かれていません。ただ3つの文章が箇条書きされているだけです。
この問題は「情報を疑う」ことができるかのテストです。多くの人は「問題文と箇条書きの文章がセットになっていれば、その中に正解があるのだろう」と無意識に考えてしまいます。ここに、普通の人と、成功する人の思考の違いが現れます。
成功者とそうでない人の勝負は、情報を見た瞬間についています。収集や整理、発信力“以前”の問題なのです。
情報整理、記憶術などの自己啓発では成功しない
私はこれまで300名を超える成功者と出会ってきました。その中には上場企業の創業者もいれば、年収10億円を超える発明家もいました。そして、その成功の秘密を探るべく、その人たちの思考の特徴を調べてきました。結果、世間で知られている「思考術」の多くが間違っていることに気づいたのです。
たとえば◯◯マップ、◯◯整理術、◯◯記憶術などのように、情報を整理し記憶するメソッドは人気があり、多くのビジネスマンも学んでいます。しかし、卓越した結果を出している成功者に、そのようなメソッドを使っている人は、ほとんどいませんでした。それらのメソッドには、そもそも論として「情報を疑う」という前提がないのです。
コンピュータサイエンスの世界では、GIGO(garbage in, garbage out)という言葉があります。「ゴミを入れると、ゴミが出てくる」という意味ですが、プログラムが完璧であったとしても、入力されるデータが間違っていれば出力される情報も間違っているということです。
優れた整理術や記憶術を学んだとしても、入力する情報がゴミならば、どんなに完璧に整理しようが、どんなに正確に記憶しようが、ゴミはゴミなのです。
「ゴミだなんて言いすぎです。私が記憶している情報は良い情報ですよ」と反論する人もいますが、「ではその良い情報を一度でも疑ってみたことありますか?」と聞くと、ほとんどの人は何も答えられません。
身近なモノで説明しましょう。あなたがスーパーマーケット(以下、スーパー)に行ったとします。その時、最初にすることは、なんでしょうか? そうですね、入り口でカゴを持つことですね。では、そのカゴは、なんのためにあるのでしょうか?
この質問を私は講演や研修会で何度もしていますが、ほとんどの人は「商品をレジに運ぶため」と答えます。99%の人がそう答えるのではないでしょうか。したがって、99%の人の脳には「スーパーのカゴは商品を運ぶためのもの」という情報がインプットされ、どんなにこの情報を整理しようが、アウトプットする時には「スーパーのカゴは商品を運ぶためのもの」という情報しか出てきません。
成功する人は、普通の人とはまったく異なる視点でモノを見ています。スーパーのカゴは、「より多くの商品を買ってもらうツール」という見方をするのです。あなたはこの意味がわかりますか? スーパーに買い物に行く人の3割は、ひとつかふたつの商品を買いに来ています。
しかし、カゴを手にした途端、カゴの隙間を埋めるかのように“余計な”商品を入れてしまい、レジに並ぶ頃には買う予定以外の商品が2~3点入っているのです。人には“隙間を埋めたくなる習性”があり、それを応用した実にうまい仕組みです。
スーパーの成り立ちを見れば、カゴひとつを取っても、よく考えられた仕組みであるということがわかります。スーパーは100年前に誕生した業態で、セルフサービスビジネスとして、最も古い歴史を持っています。
つまり、接客をしなくても自動的に売り上げる仕組みとして、考えに考え尽くされているのです。今やスーパーはありふれた日常風景になってしまったため、そこに優れたビジネスシステムがある、ということさえ気づかなくなっています。ほとんどの人が思考停止しているのです。売るための仕組みを気づかせないという意味で、極めて成功しているビジネスシステムといえます。
身近なものを視点を変えて見る
誰もが信じている情報を疑う、ということの意味をわかっていただけましたでしょうか。私たちの身近には、価値ある情報が溢れています。しかし、誰もそこに価値があると気づかないため、凡庸な情報として記憶しているのです。インプット前に疑わなかった情報は、どんなに優れたメソッドを使おうが、価値を生み出すことはありません。GIGO「ゴミを入れると、ゴミが出てくる」という言葉を忘れないでください。
それでは別の事例を取り上げましょう。コーヒーを飲む時に使われる「スティックシュガー」は、なんのためにあるのでしょうか? さあ、ここまで読まれたあなたは、別の答えを探そうとしているはずです。多くの人は、「保存や持ち運びに便利で、使いやすいから」と答えます。あなたはどう考えましたか?
答えは、「砂糖の消費量を増やすため」です。もちろん「保存や持ち運びに便利で、使いやすいから」も間違いではないですが、成功する人の思考は、スティックシュガー提供者の意図も読もうとするのです。
スティックシュガーを使う場面を観察してください。全部使い切る人もいれば、半分残す人もいます。残したスティックシュガーは捨てられる運命にあります。昔、砂糖はシュガーポットに入っていて、必要な分だけスプーンで入れていました。自分で調整できるため無駄がなかったのです。しかし、スティックシュガーの出現によって、砂糖を“捨てる”という行為が生まれ、砂糖の消費量を必然的に増やしているのです。
1970年代、オイルショックによる経済危機の時、砂糖の消費量が激減し製糖業界も危機を迎えていました。そこに救世主のごとく登場したのがスティックシュガーでした。スティックシュガーは、砂糖の消費量を伸ばし製糖業界を救ったのです。
このような背景を知っているかどうかに関わらず、実際に自分がどう感じるかが重要です。スティックシュガーを使うことで砂糖の消費量が増えていることは、よく観察すればわかることです。
成功する人はこのような身近なモノからビジネスのヒントを発見する力があります。スーパーのカゴを見れば“自動的に売上を増やす仕組み”として記憶し、スティックシュガーを見れば“パッケージ化することで消費を増やす仕組み”として記憶するのです。このような情報が脳の中には溢れており、それらが有機的に融合することで、他人が気づかない商品やビジネスシステム、ビジネスモデルを創造できるわけです。
多くの人が凡庸な情報を記憶し、小難しい理論や手法を学んでいる間に、成功者は身近なモノから実用的なアイデアを学んでいるのです。
ニュースや本も「情報を疑う」ことなくインプットしても意味がありません。発信される情報の中には、発信者に有利になるものも多く含まれています。巧みな情報操作によって無意識のまま誘導されている可能性もあるのです。
情報を上手に記憶し整理することをマスターした人は、情報を発信する者から見れば良いカモです。なぜなら「情報を疑う」ことがないからです。成功者は、ニュースや本も鵜呑みにせず、発信者のポジショントークを見破っています。他人にコントロールされない力を持つからこそ、人を使うのも巧みなのです。
日本の偏差値教育の弊害というべきか、間違った情報が世にあふれていることも知らず、情報をできるだけ沢山持つことが良いと考える人が多くいます。本も“速読”をして早く情報をインプットしたほうがいいと考える人も多いようです。しかし、その本が間違いだらけだったら、間違った情報を高速で記憶し、間違った情報で脳を満たすことになります。本の情報は正しいはず、と思い込んでいる限り、成功者とまともに競うこともできません。
年々、倍々ゲームで間違った情報が増大していく現在において、情報の整理術や記憶術はどんどん重要性が低下しています。今最も重要なのは、『情報を“疑う力”』なのです。