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人物デザイナー・柘植伊佐夫氏「人はなぜ変わるのか?」を求めて

※本原稿は、Business Journal 2013年1月15日号に掲載されました。

2012年、ファッション業界で最も権威のある『毎日ファッション大賞』の鯨岡阿美子賞を受賞され、名実ともに日本を代表するトップクリエーターである柘植伊佐夫氏。その半生とデザイン哲学を綴った『さよならヴァニティー』(講談社)。

『さよならヴァニティー』の企画から出版までの2年間、柘植氏の人生哲学を取材する中で、柘植氏が卓越した作品を創出し続ける秘密を見つけた。

 今回の対談では、その発見した事実を柘植氏に初めて伝えることで、いわゆる一般的な成功法則とは全く異なる思想に触れ、その深層へと向かっていく。NHK大河ドラマや映画等の人物デザインで圧倒的な作品を残し成功している柘植氏の世界観を知ることで、あなたの思考のフレームも変化していくはずだ。


鈴木 柘植さんとはもう10年以上のお付き合いになりますが、当時、ある教材関連のお仕事でご一緒させていただいたんですよね。

その際に、仕事の中で「目標をきちんと持ちなさい。その目標に向かって計画を立てて進んでいきなさい。そうすると成功するよ」というお話があったのですが、今回、私の本では、それとはまた異なるアプローチを提唱していて、実はそれは柘植さんからインスピレーションをいただいたんですね。

柘植 そうなんですか。

鈴木 ええ、なので今日はちょっとそのお話をしたいと思うのですが、まずは読者の方のために、自己紹介をお願いできますか?

柘植 はい、私の仕事は、ビューティーディレクターと人物デザインというもので、おそらく両方共一般には聞きなれないものだと思います。そもそもはヘアメイクから入っていったのですが、次第に映画や舞台やイベントと、サイズ感が大きいものに変わっていって、全体を差配しなければならなくなったんですね。

もちろん、ヘアメイクも、頭を使わないわけではないのですが、どうしても手を動かす“職人”“アーティスト”というイメージのほうが強いかな、と。そこでビューティーディレクターという言葉に転換したら、よりディレクター職が強くなるかなと思って使い始めたんです。

要するに、ヘアメイクというものを媒体においてディレクションしていく立場の仕事です。他方、人物デザインですが、この言葉がハッキリしたのは、2010年のNHK大河ドラマ『龍馬伝』のときに、役者のキャラクターを作っていくうえで、ヘアや衣装、小道具……という扮装全般をかたちにしていったときです。

そのときに全体を差配する役職が必要になって、それは、大河ドラマに限らず映画などでもそういうことはあるのですが、NHKサイドが、(クレジットなどの関係から)役職名をかたちにしなければならなくて、それで「人物デザイン」という言葉を考えていただいたんです。

以降、『平清盛』でも、人物デザイン監修をしておりますが、そういうキャラクター造形の仕事をしています。

鈴木 「人物デザイナー」という肩書きでお仕事をされているのは、おそらく日本で柘植さんただ一人ではないかと思うのですが?

柘植 そうですね、NHKが僕の仕事内容を役職名にするためにつくってくれた名称なので、今のところは僕だけじゃないかと思いますが、他の方々にも使っていただければ、もっと人物デザインという仕事が定着する可能性が増えて良いのではないかと思います。

鈴木 人物デザインという名称が示す通り、映画なりドラマなりの登場人物の性格・キャラクターに合わせて、それこそ、演じている役者の気持ちさえも変えてしまいますよね。

柘植 そうですね。扮装には、ある種の“儀式性”があって、つまり、Aという自分からBという役に転換していくときに、どうしても通過していかなければいけない儀礼のようなものがあるんですね。

化粧の起源や儀式的なものにもすごく関わってくることだと思うのですが、それは難しい話ではなく、何かを演じる際、やはり素のままの自分では演じられないので、そういうところをお手伝いさせていただいているわけです。

鈴木 柘植さんがヘアデザインからスタートされて、そこから人物デザインに至る過程が、柘植さんの著書『さよならヴァニティー』(講談社)に書かれているわけですがーー。

柘植 鈴木さんには非常にご協力いただいて(笑)。というより、これは鈴木さんにご紹介いただいたからできたようなものなんですよね。

鈴木 『さよならヴァニティー』の企画から約1年半、実際に本になるまでには約2年にわたって柘植さんを取材させていただきました。

その間には3.11などもあって、世間一般の考え方がガラリと変わる瞬間を体験しながら、人の考え方というのはここまで一瞬で変わるものなんだな、ということをつくづく感じました。

柘植 皮肉なもので、3.11以降、みんなーー自分も含めてーーある種の変革を望むようなところが根底にはあるのですが、一方で、国や団体といった、大きなユニット・組織などは、保守化傾向にあるなと感じたのです。

その矛盾がなぜなのかは今も考え続けていて、つまり、変革に対する寄り戻しとしての保守なのか、ともあれ、人がとても危ういものなんだということを改めて感じています。それは、この本を作っているとき以上に感じますね。

鈴木 最初に本の企画を提案させていただいた際、“人はどうしたら変わるのか”がテーマだったんですよね。その後、とくに3.11を境にガラっと変わった瞬間があって、それは人だけじゃなくて、社会もガラっと変わってしまって。

本の制作過程でそういうことがあったので、改めてコンセプトもそこに焦点を当てた、という経緯もありました。そこで、“人はどう変わるのか”をテーマに柘植さんに取材させていただきながら、実は僕は、柘植さんはなぜ変わったんだろう? あるいは変わっているのかいないのか、そこに興味があったんですね。

柘植伊佐夫(つげ・いさお)

1990年、第一回日本ヘアデザイナー大賞受賞。99年、手塚眞監督「白痴」でヘアメイクを監督する。塚本晋也監督「双生児」、庵野秀明監督「式日」「キューティーハニー」等を経て、05年、現代美術家マシュー・バーニーのアートフィルム「拘束のドローイング9」のビューティーメイクアップ、レオス・カラックス監督「メルド」のビューティーディレクションを担当。

08年、同担当の滝田洋二郎監督「おくりびと」が第81回米国アカデミー賞外国語映画賞を受賞する。この頃よりキャラクターデザインとその全制作を統括する「人物デザイン」の必要性を強く感じ、本木克英監督「ゲゲゲの鬼太郎千年呪い歌」、中野裕之監督「TAJOMARU」、三池崇史監督「ヤッターマン」「十三人の刺客」に続き、NHK大河ドラマ「龍馬伝」「平清盛」で人物デザイン監修を担当する。詳しいプロフィールはこちら

【関連情報】

Isao Tsuge
講談社『さよならヴァニティー』(柘植氏の著作)

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この記事を書いた人

思考力研究所所長、ビジネス・コーチ、ビジネスプロデューサー、一般社団法人「日本経営コーチ協会」アドバイザー
著書:100の結果を引き寄せる1%アクション他多数

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