経済悪化による自殺者、新型コロナの死者を上回る恐れ…GDP2割減、自殺者5千人の試算も

※本原稿は、Business Journal2020年05月21日号に掲載されました。

経済悪化による自殺者、新型コロナの死者を上回る恐れ…GDP2割減、自殺者5千人の試算も

2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件、いわゆる「9.11テロ」が起こったあと、アメリカ国内で“奇妙な現象”が起きた。テロ後の1年間の自動車事故による死者が、前年より1595人増加したのである。その数は、テロで亡くなった航空機犠牲者(246人)の、実に6倍以上の数に達する。一体、何が起きたのだろうか。

カナダのジャーナリスト、ダン・ガードナー氏は、著書『リスクにあなたは騙される』(早川書房)で、この奇妙な現象について解説している。ダン氏によれば、飛行機テロを恐れた人々が自動車移動に切り替えた結果、自動車事故が急増したのだという。

通常であれば、飛行機事故で死亡する確率は13万5000分の1である。一方、交通事故で死ぬ確率は6000分の1だ。人々は、飛行機で死ぬ確率をゼロにするために、飛行機よりも22倍死ぬ確率が高い自動車を選んでいたのだ。

これは、人はゼロリスクを追求するあまり、「非論理的」な選択をしがちになる事例として用いられる。今まさに、新型コロナウイルスの脅威に対して、ゼロリスクを求めるあまり、より多くの犠牲が起こりかねない状況にあるのだ。

2020年5月18日に、1-3月期の実質GDP成長率が発表され、年率でマイナス3.4%(前期比)となった。4-6月期はマイナス20%を超える可能性があるという予想もある。大和総研の試算によれば、2020年の実質GDPは、7.6%減少する可能性があるという。2009年のリーマンショックのマイナス5.4%を超え、日本経済に大打撃を与える可能性がある。

 

経済悪化で自殺者が急増する恐れ

経済と人命には、密接な相関関係がある。経済が悪化すれば自殺者が急増するのだ。ここで、計算式を使って、今後予想される“経済悪化による自殺者”を試算してみる。結論を先に言えば3000~5000人もの自殺者が増加する可能性がある。

失業率と自殺率には強い相関関係があることが知られている。教育社会学者の舞田敏彦氏によれば、その計算式は「Y=1.949X+14.345(Y=自殺率、X=失業率)」の一次式に表されるという(「失業率とシンクロする自殺率の推移」より)。この計算式を平たく言えば、「失業率が1%悪化するごとに、自殺者は2339人増える」ということだ。

ニッセイ基礎研究所の試算によると、新型コロナの影響によって失業率は3.9%になるという。2020年1月時点での失業率2.4%から、1.5ポイント悪化することになる。上記の計算式で計算すれば1.5×2339、すなわち3508人、自殺者が増加することになる。

さらに、最悪のシナリオである「2020年の実質GDP20%減少」のケースを考えてみよう。

「経済成長と失業率には負の相関関係がある」という有名な「オークンの法則」(※)を用いて失業率を算出すると、最悪2.2%悪化することになる。すると、先ほどの計算式で自殺率をはじき出せば、実に5145人の自殺者の増加が予想される。

5月20日時点で、新型コロナによる国内の死者数は773名である。しかし、経済悪化の影響による自殺者は、その数を大きく上回る3000~5000人に及ぶかもしれない。

日本における新型コロナの感染者や死亡者は、欧米諸国より2桁も少ないにもかかわらず、緊急事態宣言解除の基準は欧米よりもはるかに厳しい。その結果、経済活動は世界でもっとも厳しいレベルで抑制されている。

米国は新型コロナの感染者が世界の3分の1に達する世界一の感染国(感染者数156万人)だが、その米国でもっとも感染者数が多いのがニューヨーク州だ(感染者数35万人)。ニューヨーク州のクオモ知事は、すでに経済再開へ鍵を切ったが、その条件のひとつに「新規入院者が3日間平均で、10万人あたり2人以下」というものがある。

一方、日本政府による緊急事態宣言解除の条件には、「直近1週間の新たな感染者数が、10万人あたり0.5人程度以下」とあり、ニューヨーク州の基準よりも4倍以上厳しい。日本政府はゼロリスクを追求するあまり、過剰な自粛要請をしているのではないかと、筆者は考えている。

 

自粛要請はするものの、補償は非常に遅い政府

また、日本政府による事業者への補償は対応が遅れに遅れ、その影響で厳しい経営を強いられている経営者は日ごとに増加している。

3月1日、政府は国民に対し、「スポーツジムやビュッフェなどを避けて」と呼びかけた。その呼びかけは、政府から事業者に対する実質的な自粛要請となったのだが、事業者に対する補償は何も提示されなかった。

筆者が取材した飲食店(東京都内で数店舗展開)は、3月1日の政府要請を受けて、一瞬でゴールデンウィークまでの予約がキャンセルとなり、数千万円の損害出ていた。

政府のアナウンスに対する経済の反応は、敏感だ。しかし、政府の対応は信じがたいほど遅い。事業者への補償となる持続化給付金や国民への現金給付が補正予算として決まったのは、3月1日から2カ月も経過した4月30日だった。一方、米政府は4月上旬には国民へ現金給付を開始していた。

雇用を守るための「雇用調整助成金」も問題が山積みだ。5月19日現在、申請件数は2万2747件で、支給が決定したのが1万2201件。しかし、実際に支給が実行された金額は40億円にとどまっている。これにはさまざまな原因があるが、ひとつには申請の煩雑さがある。

東京や大阪で「手作市場」というハンドメイド雑貨店を展開する株式会社コミュースタイル代表取締役湯地弘幸氏は、雇用調整助成金の現状をこう語る。

「雇用を守るために、3月下旬から申請の準備をしてきました。しかし、申請には、現在、誰もお店に出勤していないにもかかわらず、従業員のシフト表を作成しなければならず、それを基準に休日日数を計算しなければいけませんでした。正直言って、不毛な作業でした。

しかも、助成金センターで確認してもらうまでに2週間以上もかかって、ようやく計画届を提出できました。さらに、5月の給与締切後に支給申請を行うので、着金は7月頃になるのではないでしょうか。あまりにも遅すぎます。これで雇用が守れるのでしょうか」(湯地氏)

雇用調整助成金は、5月20日からオンラインでも申請できるようになった。しかし、受理後の審査や手続きが従来のままならば、支給のスピードアップにはつながらない。

日本の役所は、いまだに「紙とハンコとFAXの文化」だと海外メディアで揶揄されたことがあったが、古い慣習を引きずってきた役所の体質が、今回のコロナ禍において事業者の存続に悪影響を与えていると言わざるを得ない。ひいては、その現状を放置してきた国にも大きな責任がある。

新型コロナによる死者よりも、経済悪化による死者が上回るかもしれない――、そんな瀬戸際に、我が国は立たされている。政府による過剰な自粛要請や、事業者への補償が遅れれば、日ごとに犠牲者が増えていくと考えるべきだ。

これまで感染予防最優先だった政府は、出口戦略と経済のV字回復への対応に、もっと力点を置くべき時期に来ている。

※ 経済学者アーサー・オークン(en:Arthur Okun)が1962年に提案した法則で、経験的に、経済成長と失業率には負の相関関係があるとするもの。日本では、GDPが1%悪化で、失業率が0.11ポイント悪化(みずほ証券 シニアマーケットエコノミスト末廣 徹氏による試算)。

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