「ハズキルーペ大好き」で話題沸騰のCMがセクハラ問題にならない絶妙な仕掛け

※本原稿は、Business Journal2018年10月4日号に掲載されました。

俳優の渡辺謙が、「本当に世の中の文字は小さすぎて読めない!」という絶叫で始まるテレビCM。あなたも一度は観たことがあるだろう。メガネ型拡大鏡「ハズキルーペ」のCMだ。このCMの続編が今、物議を醸している。

新CMは、今年3月に第一子を産んだ武井咲の復帰第一弾として話題だが、それ以上にCMの中身そのものがネットをざわつかせている。

今回は舞台が高級クラブとなり、武井咲がママ、常連客として小泉孝太郎と舘ひろしが登場する。武井咲は、かつて主演したテレビドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)さながらに、艶やかな和服姿で、お店で働く美女たちを仕切っている。

常連客の小泉孝太郎と舘ひろしとの掛け合いの後、やおら武井ママが「みんなハズキルーペを置いて」と女性たちに指示。すると、4つの椅子にハズキルーペが置かれ、3人の女性が次々に上から座っていく。最後にはなんと和服姿の武井ママもハズキルーペの上に座る。

椅子シーンは、前CMでも菊川怜が演じていたことで話題となったが、今回は4人に増えた。このシーンがセクシー過ぎるとして、ネットでは「セクハラではないか」「悪趣味」などの批判もある一方で、「面白くなってきた」「どんどんやってくれ」という賞賛もあり、世間を騒がせ始めている。

芸能界でも話題となっており、タレントの伊集院光は、9月24日放送のラジオ番組『伊集院光 深夜の馬鹿力』(TBSラジオ系)で、「ハズキルーペの新しいCM、どうかしてんのよ、もうね」と感嘆しつつも、「誰も止めるな」「いけ!いけ!」と推しまくっている。

優れたマーケティング手法

賛否はともかく、筆者はマーケティングの視点から、このCMを、ある意味で評価している。

前CMでは、渡辺謙が「世の中の文字は小さすぎて読めない!」と絶叫することで中高年の共感を誘い、さらに菊川怜がハズキルーペをお尻で踏むというインパクトで、ハズキルーペの存在を強烈に印象づけた。

耐久性をアピールするCMとしては、イナバ物置の「100人乗っても大丈夫」という有名なセリフや、古くは「象が踏んでも壊れない」筆入れとして、昭和40年代に大ブームとなったサンスター文具の「アーム筆入」などがある。しかし、ハズキルーペのCMは、ただ耐久性をアピールするだけでなく、美女がお尻で踏むという、前代未聞のセクシーさを加えているところが特色だ。

もし、今回のCMが、渡辺謙と菊川怜のバージョンの前に放送されていたら、今の騒ぎどころではなく、セクハラとして大問題になっていたかもしれない。しかし、前CMで菊川怜の椅子シーンに見慣れた視聴者は、4人連続で座るシーンが放送されても、「ハズキルーペのCMだから」と、あまり抵抗感なく観てしまう。

さらに今CMでは、絶妙な仕掛けがあることにお気づきだろうか。CM冒頭で、武井ママが、「話題のハズキルーペを、お店で売ります」と宣言するシーンだ。もしこの一言がなければ、件の椅子シーンは、常連客がやらせたように見えてしまい、明らかなセクハラと判断されてしまったかもしれない。武井ママも率先して、ハズキルーペを売るためにプレゼンしているという“初期設定”にしたところが、実にうまい演出なのだ。
また、もっとも注目すべきポイントは、前CMと今CMで同じセリフが使われているところだ。CM最後に登場する、「ハズキルーペ大好き」というセリフだ。

前CMでは、菊川怜が、彼女のこれまでのキャラクターからは想像できないほどのオーバーアクションで、両手でハート型をつくり、ウインクしながら「ハズキルーペ大好き!」と叫ぶ。今CMでは、舘ひろしが「ハズキルーペ、好きだな」と渋い声で言うと、武井ママが、ウインクしながら「ハズキルーペ大好き」と応える。舞台が高級クラブだけに、この2人のセリフの掛け合いには、言外の意味が含まれた、絶妙なサブリミナルメッセージとなっている。だが、重要なのはここではない。

「ハズキルーペ大好き」というシーンでは、右側にハズキルーペの機能やスペック、価格がエンドロールのように流れている。

つまり、右側でハズキルーペの性能を論理的にアピールしながら、左側では「あなたも、きっとハズキルーペ好きになるから!」と、感覚的に訴えているのだ。論理性と感性の両面を持つ人間の脳の特性を考慮した、実に計算された画面構成である。

意外な制作者

一体、このCMはどこが制作したのかと調べたら、意外な事実が判明した。このCMのプロデュースと監督を務めているのは、ハズキルーペの販売元であるHazuki Company会長でプリヴェ企業再生グループ代表取締役の松村謙三氏自身なのだ。

松村氏のインタビュー記事(ZAKZAK https://www.zakzak.co.jp/eco/news/180724/eco1807240007-n3.html)によれば、当初はCM制作をプロのクリエーターに任せていたそうだが、提案通りに仕事をしないために激怒し、「今日から俺がやる」「すべてのリスクは俺が負う」と自らスタッフを集め、衣装選びから出演者のセリフ、演出までをすべて行うようになったという。その結果が、月に数十万個売り続けるハズキルーペの大ヒットにつながった。

同社は宣伝広告費に100億円以上かけているというが、ハズキルーペの成功は金額ではなく、松村氏の肌感覚にあるといえる。長年ビジネスで培ってきた感覚と、松村氏の個人的な体験から、あの感性に訴えかける独特のCMが生まれたのだろう。

この大胆なCMが、どこまでいくのか。筆者はマーケティングの視点で観察していこうと思う。

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