年商7億円、ココナッツオイルブームを仕掛けたママ社長の成功の秘訣…「バカシステム」から脱却せよ

※本原稿は、Business Journal2018年6月19日号に掲載されました。

左:荻野みどりさん、右:筆者(鈴木領一)

女性の自由を妨げる「ガラスの天井」は、依然として存在する。

「ガラスの天井」という用語は、女性のキャリアアップを阻むものの象徴として使われるが、私はそのような文学的な表現よりも、「バカシステム」という言葉を使いたい。女性の自由を奪っているものは、「ガラスの天井」という語感から想像できるような、綺麗な障壁ではないからだ。

「バカシステム」とは、誰かが自分の利益のためにつくった“常識”を、他人に無意識に信じ込ませている仕組みのことだ。この仕組みによって、「思考停止=バカ」に陥ることから、私は皮肉を込めて「バカシステム」と名付けた。詳しくは、拙著『脱バカシステム! ~想像以上の結果を出し続けるメソッド』を参考にされたい。

女性を不自由にさせている「バカシステム」とは何か。

「早く結婚して、子どもを産むことが女の幸せ」
「女には高学歴は必要ない」
「女は家にいて、子どもを育て、教育するのが仕事」
「職場では、男より目立ってはいけない」
「女は男より能力が劣っているから、男がリーダーになるべき」

もちろん、どんな考え方を持つかは人それぞれ自由だが、これらが“常識”として社会を覆い、積極的な社会進出を望む女性の可能性を奪っている側面があるのは事実だろう。それが、わが国の現状である。

世界各国の男女平等の度合いを示した「ジェンダー・ギャップ指数」(2017年版)で、日本は調査対象144カ国のうち114位と、最低ランクにあることがわかった。先進国で、これほど女性の自由が奪われている国はないだろう。

安倍晋三政権の肝いりである「女性活躍推進政策」は、掛け声が虚しく響くだけで、実質的な結果を出しているとは到底言いがたい。

しかし、この強固な「バカシステム」を突破し、人生を自由に謳歌している女性もいる。

今回は、そのひとり、荻野みどりさんを取り上げる。

「女は愛嬌があって馬鹿でいい、そのほうが幸せになれる」

荻野さんは年商7億円の株式会社ブラウンシュガーファースト(https://bs1stonline.com/)の代表取締役だ。オーガニックの「ココナッツオイル」の仕掛け人と言ったほうが、ピンと来る人も多いだろう。

2013年に売り出した「有機エキストラバージンココナッツオイル」は、美容と健康に良いオイルとして口コミで広がり、テレビ番組『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)でも取り上げられるなどマスコミからも注目され、生産が追いつかないほどの大ブームとなった。

今ではココナッツオイル以外の商品も手がけ、全国300店舗を超えるスーパーマーケットで販売されている。

会社を創業して2年で、これほどの大躍進を達成した女性と聞けば、さぞやバリバリのキャリアウーマンと思われるかもしれない。しかし、実像はまるで違う。

「20万円の軍資金で、母と2人でお菓子屋さんを始めたのがスタートでした。娘を産んだばかりの頃です。

完全母乳で育てていたんですが、娘に湿疹が出たり便秘になったりして、私が食べたものが娘に悪影響していると思ったのです。食と体、心のつながりの重要さを痛感して、子どもが安心して食べられるお菓子をつくって販売しようと考えました。それが最初でした。

当時、青山で週末に開かれるファーマーズマーケットで、娘をおんぶしながら一つひとつ手売りしていました」(荻野さん)

荻野さんは福岡県久留米市の出身。幼い頃から聞かされていた、“当たり前の価値観”に違和感を持っていたという。

「父はサラリーマン、母は専業主婦。姉と弟がいますが、弟にかけられる期待と、私や姉にかけられる期待がまったく違いました。『女は愛嬌があって馬鹿でいい、そのほうが早く結婚して出産できるし、幸せになれる』という価値観の中で育ちました。でも、私はやりたいことがあったら動き出さないと気が済まない性格。生きる場所はここではない、といつもモヤモヤしていました。

フランスに行って料理人になりたい、アメリカに行ってファッションやアートの勉強をしたい、とやりたいことが次から次に浮かんできたんですが、結局、“女はこうあるべき”という価値観に押しつぶされ、“どうせ、わたしなんて”と思ってしまい、福岡から出ることができませんでした」(同)

しかし、海外に行って自分の可能性を試してみたい、という荻野さんの情熱は、冷めることはなかった。短大1年生の時、両親に頼み込んで、ようやくニューヨークへ1カ月の語学留学が許された。

ニューヨークで貪欲に多くの体験をする一方、自分が置かれた世界の小ささに打ちのめされたという。ニューヨークで出会った友達はどんどん自分の可能性に挑戦しているのに、自分は結局、福岡に帰らなければならない。古い価値観「バカシステム」に縛られた世界に……。

前向きな離婚が元夫との関係性を良好に

帰国後、荻野さんは大学を中退する決意をする。自分で自分の人生を開く決断をしたのだ。

しかし、その後の人生は、まさに波瀾万丈だった。大好きなアパレルの仕事に就いても、待遇の格差に失望して退職。その後、ボストンバッグひとつ持って上京するも、お金がなくなり借金まみれになった。百貨店の販売員、パソコンの販売員、ウエートレス、工場内軽作業、コーヒーショップの店員、外資系企業で秘書、ホームページ制作会社の営業など、数え切れないほどの職を転々とすることになる。

「私の履歴書はまったく綺麗ではないです。職務経歴書は3枚では書ききれないと思います。こじれまくっています」(同)

これほどの転職を繰り返したのは、学歴がないためだという。学歴がないので昇進は見込めない。ならば「食い扶持」を増やしたほうがいいと考えた。

だが、25歳で結婚すると、生活は一変してしまう。働かなくても生きていけるという安心感から、モチベーションがゼロになったのだ。

「家事もまともにせず、韓流ドラマを見るだけの日々が続きました。自己嫌悪に陥り、生きている価値がない、私は社会のクズだと落ち込んでしまいました。でも開き直って、気持ちを切り替えて、全力でダラダラすることにしました。これも良い機会と考え、自分の内面と向き合ったのです」(同)

3カ月ほどたち何もしない生活に飽きた荻野さんは、フリーランスで仕事を再開する。しかし、「誰かの役に立っている」という手応えを得ることはできなかった。
そして2011年、29歳の時に娘を出産し、前述のようにお菓子ブランド「ブラウンシュガーファースト」を立ち上げる。

子どもに安心して食べさせられるお菓子をつくるという仕事は、長年探し続けてきた「人生をかけてやりたいこと」だった。あちこちに頭をぶつけながら探し続けてきた天職を、ようやく見つけたのだ。

「創業後は順風満帆でしたが、それでも“どうせ私なんて”という苦しい気持ちを抱えていました。どこに原因があるのか考えてみたら、私の役割に悩みがひも付いていることがわかりました。嫁という役割です」(同)

夫を立て、内助の功が求められる嫁としての役割に、ワクワクも幸せも感じられないとわかった荻野さんは、夫に正直な話を打ち明け、妻という役割を降りることにした。長年のモヤモヤが消えたことで、かえって元夫との関係も良くなったという。

女性活躍推進政策で「バカシステム」は変わらない

有機エキストラバージンココナッツオイル

軍資金20万円で立ち上げた小さなお菓子屋さんは、ココナッツオイルとの運命的な出会いによって瞬く間に成功し、売り上げ7億円に達する。当然、仕事は多忙となり、今度は「母親」としての役割に向き合わざるを得なくなる。

「創業当時から、子どもはお母さんがどれだけ目をかけたかで決まるとか、子どもを犠牲にしてまで働く必要があるのかなどと言われて、ママ失格なのかと悩む日々でした。ところが、ココナッツオイルの原料をフィリピンへ探しに行ったとき、フィリピンのお母さんは、子どもを人に預けて外で働いていても、親子関係がちゃんと育まれていることを知ったのです。

お母さんが子育てをサボっているとか、子どもに悪い、という価値観もありません。子育てについての価値観がひとつじゃないんだと学びました」(同)

荻野さんは、女性に関する多様な価値観を知ることで、自分の本音を大切にしたほうがいい、ということに気づいた。その気づきは、会社の経営にも役立っている。

子どもがぐずったなら遅刻してもいい、できないことは最初から宣言してしまう、というように、これまでにない「ルール破り」の経営で、社員に自由で柔軟な発想を育てている。

「あるママ社員が、お子さんから『早く大人になりたい』と言われたそうです。どうしてと聞くと、『ママが仕事をしているのが楽しそうだから』と答えたそうです。私は思わず涙が出てしまいました」(同)

荻野さんの成功の秘密は、女性を取り巻く古い価値観「バカシステム」を疑問に思い、それにとらわれることなく、自分の本音に素直に従ったことだ。
荻野さんの半生を綴った『こじらせママ 子育てしながらココナッツオイルで年商7億円。』(集英社)は、多くの女性の共感を呼び、ベストセラーとなっている。

政府の女性活躍推進政策で、有識者がどれだけ議論を重ねたところで、対策にいくら予算を付けたところで、強固な「バカシステム」が変わるわけではない。

荻野さんのように、古い価値観「バカシステム」と闘っている人が、何に悩み、どう克服したかを知り、意識し、多様な生き方を許容する共通認識を醸成していくことが大切なのだ。

それは、私たち一人ひとりが実践できることだ。その小さな“思い”の蓄積が、社会の変革とつながっていくのだから。

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