成功者は必ず5時に仕事終了?ダラダラ残業は異常&不幸、成功企業は社員第一主義!

※本原稿は、Business Journal2015年10月6日号に掲載されました。

9月25日、第189回国会は閉会した。今国会では安全保障関連法制が最大の争点となったが、その陰に隠れて審議も不十分に次期国会へと先送りされた法案があった。

労働基準法等の一部を改正する法律案、いわゆる「残業代ゼロ法案」である。この改正案は安倍政権が成長戦略の目玉に位置付け、4月3日に閣議決定され今国会の成立を目指していた。

改正案は、金融ディーラーなど専門的な仕事に就く、年収1075万円以上の労働者を労働時間規制の対象から外す「高度プロフェッショナル制度」、通称ホワイトカラー・エグゼンプションの導入が柱となっている。しかし野党は、今後年収要件が緩和されると対象が拡大し、残業代ゼロの長時間労働を助長するとして反発している。

今国会では成立しなかったが、アベノミクスの目玉であり経済界からの期待も大きく、次期国会での成立はほぼ間違い情勢だ。

残業代がゼロになる、ということだけに焦点が当てられがちであるが、そもそも論として、「日本人の働き方と幸福とは」という視点での議論がないがしろにされていると筆者は常々考えている。

今回は、新しい働き方の提言を行った『実践ワーク・ライフ・ハピネス2』(阿部重利、榎本恵一共著、藤原直哉監修/万来舎)の著者のお二人に、本来議論すべき観点について取材を行った。

–残業代ゼロ法案が今国会では不成立でしたが、そもそもなぜこのような法案を政府は通そうとしているのでしょうか。

阿部重利氏(以下、阿部) 政府も経済界も、労使についての古い「思考の枠」がそうさせているのです。

–思考の枠とはなんですか?

阿部 労働者と会社は対立するものだという古い考え方です。労働者は会社に対して「安い給料で長く働かせたいのだろう」と考え、会社は「残業代が欲しいから残業しているのだろう」と考えているという固定観念があります。

成果の上がらない労働に対しては残業代をゼロにしようというのが会社側の論理であり、労使の対立概念から出てくる発想です。そもそもそこがズレてるのですが、政府も経済効率が上がることを期待して推進しているように思います。

榎本恵一氏(以下、榎本) 私は税理士なので、税理士の観点でみると、現在の税制では給与所得控除の頭打ちとなる年収が1500万円超(控除上限245万円)となっていますが、2016年から段階的に年収1000万円超まで引き下げられ、17年以降は1000万円以上の収入を得たとしても220万円までしか控除を認められなくなります。ホワイトカラー・エグゼンプションで残業代がなくなり、さらに控除額も少なくなれば、必然的に手元に残る金額は少なくなります。専門性を持ち、社会にも貢献している方の給料が結果的に少なくなり、しかも長時間労働で体調も犠牲にしなければならなくなる恐れもあります。

そういうライフスタイルを日本人が本当に望むのだろうか、それで幸せなのだろうかという根本的な疑問もあります。

ダラダラ残業する会社にハピネスはない!

阿部 そもそも年収縛りの法律は、万人のための法律とはいえないと思います。「残業代をゼロ」にするかどうかの議論より、「残業をゼロ」にするほうが良いではないですか。なぜそのような議論にならないのかと思います。

仕事が定時に終わることを実現している会社は効率が良い会社なのですから、そっちが良いに決まっています。一方、残業が多い会社が、ただちにブラック企業である、というステレオタイプの考えも間違っていると思います。

残業をしている社員には2種類の社員がいます。「ダラダラ社員」と「イキイキ社員」です。「ダラダラ社員」は仕事をしているフリをしながらダラダラと残業をしている社員です。「イキイキ社員」は仕事が楽しくて、残業をしている意識もなくイキイキと働いている社員です。

つまり、残業している社員が多いからブラック企業という見方は偏った考えであり、要はどのような思いで働いているかが重要で、社員が幸福感(ハピネス)を感じているかどうかが本当の意味での良い会社かどうかを見分ける基準だと思うのです。

ダラダラ社員がいるということは、そもそも仕事が面白くない、楽しくないということの表れですし、社長にも責任があると考えるべきです。

『実践ワーク・ライフ・ハピネス2』では、仕事が充実し社員がハピネスを感じている会社が多く登場します。岩手県にある総合オフィス商社の株式会社平金商店 は、女性の活用で成功している事例として取り上げました。

平金商店のケースでは、子育てしている女性のほうが仕事の効率が良いようです。早く帰らなければならないから仕事をテキパキと片付けるわけです。どうせ残業するからとダラダラ仕事をする社員とは大きく違います。仕事の効率が良く、アフター5も充実させることは可能なのです。

一方、仕事が楽しくて気がついたら残業していたというケースもあります。拙著で登場するハピネス企業の社員の多くがそうですね。残業をしていてもハッピーなケースもあるのです。

–日本では「上司が残業しているから自分も仕方なく残業する」という風景をよく見ますね。

榎本 部下が残業せずに早く帰ると、翌日に上司が「昨日は早く帰ったな」と詰めることがありますね。そういう会社にハピネスはありません。

部下は上司を見て仕事をして、ダラダラと仕事をしながら「自分は仕事をしていますよ」というアピールをしているにすぎません。それなのに「日本人は働き蜂だ」と言われていることに矛盾を感じます。

そういったところを根本的に変えていくため、政府や企業のリーダーは、この日本の悪しき文化を変えると宣言してほしいのです。拙著で登場しているハピネス企業のように、社員も会社も双方がハピネスになる方法はあります。労使は対立するものであるという古い考えを捨て、新しい働き方を追求してほしいですね。

ハピネス企業には上下関係がなく、社長がとても謙虚という特徴があります。社員を大事にしているから会社が成長しているという意識を社長が持っているからです。会社とは何か、社員とは何かという意識改革こそ、今の日本に必要な議論ではないでしょうか。

仕事で成功する秘訣は、午後5時に帰ること

–まさにおっしゃる通りですね。私が以前取材させていただいた会社に、年間売り上げ数百億円という外資系会社がありました。その会社の最高経営責任者(CEO)はアメリカ人で、敬虔なモルモン教徒でした。私が「仕事で成功する秘訣は何ですか?」と質問したところ、彼から意外な言葉が返ってきました。「夕方5時に仕事を終えることです」というのです。彼はモルモン教の教えに忠実で、夕方早くに仕事を終え、アフター5は家族とともに過ごすことを日課としていました。夕方5時以降は仕事をしないと決めているから、仕事が効率的になり無駄がなくなると。そして「日本人が夕方からダラダラと残業しているのが理解できない」と言っていました。日本人は家族を大事にする人たちだと思ったが、仕事観は歪んでいると指摘しています。

阿部 その指摘は正しいですね。私は先日、福井県に取材に行ってきました。福井県は仕事と生活の両立が成功している県として有名なのですが、実際に取材してみてその秘密がわかりました。

福井県では共働き家庭が多く、「女性が働くのは普通」という感覚があります。また二世帯住宅が多く、子供の世話をおじいちゃんおばあちゃんがみるという文化があります。地域や家族が応援する文化があるからこそ、「仕事と生活の両立」が成り立つのだと実感しました。

しかし、日本の多くの地域が核家族化しているという現実もあります。日本人の働き方を変えるには、日本にそもそもあった「地域と家族が支えあう」という原点に回帰すること、時代や環境の変化でそれが難しい場合には、企業内保育などの「制度の充実」の2点が重要になると思います。

榎本 そういう意味でも、今回の労働基準法改正案のように、法律で縛ってハピネスな働き方が実現できるわけがありません。もっと大きな視点で考えることが重要です。法律ができてしまうと、現実を法律に合わせようとする動きもできかねません。

榎本 そういう意味でも、今回の労働基準法改正案のように、法律で縛ってハピネスな働き方が実現できるわけがありません。もっと大きな視点で考えることが重要です。法律ができてしまうと、現実を法律に合わせようとする動きもできかねません。

たとえば、待機児童ゼロを目指すある地域で、「第1子を保育園に通わせている親が、第2子を出産し育児休業を取得した場合、第1子が0~2歳児の場合は原則として退園となる」という制度を導入し「少子化対策に逆行している」と話題になりました。待機児童ゼロを目標とするあまり、本末転倒な施策を行った事例ですが、このように本質的な問題解決よりも、法律で縛った目標達成のために現実を無理矢理合わせていこうということが起きかねないのです。

日本賃金研究センター代表幹事の楠田丘氏から伺った話ですが、楠田氏がかつて第1回目の『労働白書』を書かれた時、人間を真ん中に置き、右に「市場経済」、左に「福祉・人材社会」と書かれたそうです。しかし当時、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)から「日本に左側はいらない。市場経済だけでいい」とクレームが入り、やむなく「福祉・人材社会」の項目を削除されたということをお聞きしました。そこから日本の労働観は歪められたということでした。

その時から日本人は「仕事と幸福」についての本質的な議論を避け、法律や制度ありきの社会をつくってきたのだと思います。今こそ、本質的な議論に立ち返る時だと思います。

社員を大切に育てない会社に未来はない

阿部 そもそも日本人の仕事観には「働くことが粋である」という感覚があったと思います。楽しく良い仕事をしている人を尊敬する文化があったと思います。その原点に戻っていく必要があります。

あるサービス業の店を取材した時、その店を観察しているとどうもおかしいというところが見えたので、店長に「あなたのところはブラック企業だね」とストレートに言ったことがあります。店長は驚いていましたが、私はこう言いました。「従業員はあなただけを見て仕事をしているよ。お客さんほったらかしで、とにかくあなたに怒られないように仕事をしているではないですか」と。

実際、新規のお客が来店すると、店員はほかのことはそっちのけで必死に接客していました。「新規のお客は逃すな」という厳しいノルマがあるのは明白でした。新規のお客が入店しないで帰ってしまうと、店員は暴言を吐いていたのです。店長を見て仕事をしていることが明確でした。このような会社では、誰もハピネスになりません。いまだに、社員に対して「人が大事」と言いながら、実際は会社の道具、コストだと考えている経営者がいるのは現実です。

榎本 楠田氏から、「人材は人財ではない」と教わりました。人が宝ではないという意味ではなく、「材」という文字が現しているように、木のように大事に育てていかなくてはならない、という意味なのです。木は栄養と日光を与え、大事に育てなければ大きくなりません。それと同じように、人も大事に育てていかなくてはならないという視点を経営者は持つべきです。

榎本 楠田氏から、「人材は人財ではない」と教わりました。人が宝ではないという意味ではなく、「材」という文字が現しているように、木のように大事に育てていかなくてはならない、という意味なのです。木は栄養と日光を与え、大事に育てなければ大きくなりません。それと同じように、人も大事に育てていかなくてはならないという視点を経営者は持つべきです。

阿部 顧客満足(customer satisfaction:CS)が大切と言いながら、真のCSを実現している企業は少ないのです。なぜなら、CS以前に顧客不満足要因をつくらない最大の経営資源は、「人・社員」であると認識し、その人・社員を大事にするという観点が抜けているからです。そういう会社の社長に対して、私はよくこんなことを言います。「CSという前に、まずは社員を真の意味で大切にしてください」と。

–「はたらく」という言葉は、そもそも「傍(はた)が楽になる」から来ているといわれます。日本には古来、周りがハピネスになってこそ働きがいがあるという文化があったように思います。そういう意味でも、お二方が提唱されている「ワーク・ライフ・ハピネス」という考え方は、本質的な仕事のあり方を問うているわけですね。

阿部 その通りです。拙著では、それをすでに実現したハピネス企業が多く登場します。理想論ではなく、実現可能なことなのだと知っていただきたいですね。

榎本 日本がグローバル化しつつあり、仕事のあり方に大きな変化が起こっている現代だからこそ、「ワーク・ライフ・ハピネス」という概念を浸透させていきたいと考えています。

●阿部重利(あべ しげとし)
ヒューマネコンサルティング株式会社代表取締役。NPO法人わぁくらいふさぽーたー代表理事。経営革新等支援機関認定事務所(経済産業省)。経営コンサルタント。ビジネスコーチ。CFP(R)。キャリアコンサルタント。ワークライフバランスコンサルタント。現在、企業コンサルティングの他、全国で年間約150本の講演・研修等をこなし好評を受け続ける。

●榎本恵一(えのもと けいいち)
税理士法人恒輝代表社員。税理士。経営革新等支援機関認定事務所(経済産業省)。株式会社ウイズダムスクール代表取締役。一般社団法人日本経営コーチ協会理事長。現在、税務・財務・経営・人事コンサルタント、経営者、企業家のための叡智の学校Eラーニングシステムによる Wisdom School校長として活躍中。

 

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