※本原稿は、Business Journal2016年8月8日号に掲載されました。

カルモ鋳工本社

カルモ鋳工本社

近年、日本の技術力を海外に輸出するシンボルとなっている新幹線。日本の航空機産業の復活を意味する国産リージョナルジェット。世界最高燃費を実現したエンジンを搭載する日本の自動車。これらを支える重要部品を製造する偉大な中小企業が神戸市にある。金属加工のカルモ鋳工 だ。

カルモ鋳工は1944年創業の老舗製造業の会社だ。アベノミクスによる景気浮揚策の効果はまだ感じられず、製造業の景況感もなかなか上昇してこない。7月1日の企業短期経済観測調査(日銀短観)でも、製造業の景気見通しは横ばいのままだ。

そのなかでカルモ鋳工は、2010年4億8000万円から6年連続増収増益を達成、15年には9億5000万円を記録し、今年度の売り上げは10億円を突破する見込みだ。カルモ鋳工は72年の歴史で、今もっとも成長する時期を迎えている。

筆者はカルモ鋳工の成長の秘密を探るべく、神戸市西区の西神工業団地にある本社を訪れた。

製造業としては異質な会社

カルモ鋳工は、敷地面積6062平方メートルに4つの工場を抱える。鋳物製造から機械加工までを一気通貫ででき、そのスピードは業界でトップクラスだ。

筆者が最初に事務所を訪問した際、いきなり目に飛び込んできたものがあった。ウェルカムボードである。小洒落た飲食店の入り口にあるような彩色豊かなウェルカムボードに、「ようこそ、鈴木領一様」と書かれていたのだ。筆者はこれまで製造業の会社をいくつも取材しているが、このような歓迎を受けたのは初めてである。「この会社は何かが違う」と早くも予感させてくれた。

高橋直哉社長に温かく迎えられ会議室に誘導されたが、そこでまた驚くものを目にすることになる。飲み物のオーダーシートだ。お客が望む飲み物を出してくれるのだ。ここは本当に製造業の会社なのだろうかと、訪問から数分で不思議な感覚に陥った。しかし、驚くのはこれからだった。

代表取締役 高橋直哉氏

代表取締役 高橋直哉氏

会議室のテーブルには、見慣れぬバインダーが置かれていた。そこには、これまでカルモ鋳工が取り組んできた業務改善の事例が、所狭しと写真付きでまとめられていたのだ。

「私どもの取り組みを知っていただきたく、ご来社されたお客様が自由に閲覧できるようになっています」(高橋氏)

このバインダーに納められていた業務改善例の一部を紹介しよう。総務部ではこれまで、納品書をひとつのトレイに入れていて、整理するのに時間がかかっていた。しかし、6段重ねのトレイに変更したところ、分類がしやすくなり、1年間で実に累計24時間も業務時間を短縮できたという。

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また、鋳造グループでは、造形道具が煩雑に保管されていたものを定位置化することによって、年80時間も短縮することに成功した。

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このような業務改善の事例が部門を超えていくつも紹介されており、それぞれにどれだけ時間短縮できたのか、何が効率化されたのかが明記されていた。さらに、この業務改善を誰が率先して実行したのか写真付きで掲載されており、社員のモチベーションアップにもつながっていることが容易に推測できた。

ほかにも、社内を見渡せば、壁一面に現在取り組んでいるプロジェクトの進捗がわかりやすく表示されており、誰が何に取り組んでいるか一目瞭然となる仕組みとなっていた。このように、業務改善の事例やプロジェクトの進行管理をお客にも公開し、透明性のある経営が誰の目にも明らかになっていた。筆者がこれまで取材してきた製造業の会社とは、まったく異質である。

中小製造業の多くは、いわゆる職人たちで構成されており、専門性を極めている一方、社交的でなく暗い雰囲気を持つ。しかし、カルモ鋳工にはそんな面影がまったくない。工場内を見学しても、筆者と目があった社員は例外なく笑顔で「こんにちは!」とハキハキ挨拶してくれた。

大反発を受けた社長交代

筆者が最初に会社のドアから入った時も、事務方の社員が全員起立し、笑顔で挨拶されたのは言うまでもない。その姿勢は自然体だった。挨拶はビジネスの基本中の基本といわれるが、製造業の現場でここまで徹底されているところは稀有である。これこそが、カルモ鋳工が成功している要因であることが、高橋氏の話でわかった。

「私は、今から10年前に社長を引き継いだ2代目です。しかし、社長交代の直後にいろんな混乱があり、本当につらい時期を過ごしました。社員から離反され業績も落ち込みました。その時、会社をどうしてでも変えなければならないと思ったのです」(同)

高橋氏は学生時代、カルモ鋳工にアルバイトとして入った。当時の社長が高橋氏の遠い親戚にあたり、声をかけてくれたことがきっかけだ。4年間アルバイトを経験し、大学卒業後は3年間コンサルティング会社に勤め、その後カルモ鋳工に正社員として入社した。実はこのとき、当時の社長から「後継者がいないので、君が会社を継いでくれないか」と相談されていたという。

「もともと私は先頭に立って引っ張っていくのが好きなタイプなので、先代に声をかけられた時、『よしやってやろう!』と思いました。しかし、最初は一般社員から入って経験を積んでいくことにしました。徐々に仕事を覚えていき、現場を持ち、営業もやり、新規事業を立ち上げたりと、一人で何役もやるようになりました。そして5年たった頃に専務となり、今から10年前に社長に就任したのです」(同)

高橋氏は、自分が描く会社のビジョンを社員と共有したいと考え、新たに考えた経営理念を浸透させようとしたが、いくら話しても共感してもらえなかったという。

「社員は、理念よりも目の前の待遇を良くしてほしいという思いのほうが強かったのです。私は独学で経営の勉強をしてきました。いろんな本に経営理念の重要性が説かれていて、それが一番大事なんだと当時は思っていたのです。しかし、現実は違いました」(同)

高橋氏は、一から経営を勉強し直そうと決意し、ダスキン事業や経営支援事業を行う武蔵野の代表取締役社長で経営コンサルタントの小山昇氏の教えを受けることにした。小山氏から「経営理念よりも前に重要なことがある」と教えられたという。その重要なこととは、挨拶であり、環境整備であり、経営計画書だった。

「製造業の現場では挨拶もしない職人が多く、それが当たり前だと思っていました。しかし、挨拶こそが基本であり、形から入っていくことで社員の心が育っていくということが理解できたのです。小さな業務改善を繰り返していくことも重要であり、社員の心をひとつにするにはそれが早道だと思いました」(同)

しかし、長年慣れてきた文化を変えようとする高橋社長に対し、古参の社員を中心に反発が広がっていく。良かれと思って導入した新しいルールを受け入れようとしなかったのだ。さらに悪いことに、リーマンショックが襲い、会社の業績も一気に落ち込んでしまう。そして、大量の社員が会社を辞めていったという。

増収増益の成長企業に生まれ変わる

「当時はとてもつらかったです。私は自分が考えていることを一生懸命伝えましたが聞き入れてもらえず、一人が辞めていくと雪崩を打つように連鎖反応が起きていきました。辞めようとする人のエネルギーに勝つことはできませんでした。しかし、これが良い経験となりました。それに、最悪の時に残ってくれた社員が、その後会社を支えてくれる人となったのです」(同)

リーマンショック後のピンチを乗り超え、高橋氏は自分が描いた新しいスタイルを次々に実践していく。挨拶の徹底や、業務改善などの効率化や経営の透明化を追求していき、会社はまったく新しく生まれ変わった。そして6年連続増収増益という快進撃が始まる。

「今では、1年前と同じ仕事をしている社員はいません。後輩や部下に自分の仕事を教えたら、次の新しい仕事に取り組むという企業文化になったからです。昔は、ずっと同じ仕事をするのが当たり前という文化でしたが、今はまったく違います。常に新しい仕事に挑戦できるということで、社員のモチベーションも高く維持できています」(同)

高橋氏は、新しい仕事を生み出すことが社長の仕事と考え、自ら新しい業界の開拓にも力を入れる。15年3月に航空機部品の生産に必要な国際認証を取得し、航空機産業という新たな分野を開拓。現在は世界の大手航空機メーカーの部品製造を行っている。

また、年々競争が激しくなっている自動車エンジンのための試作部品製造も請け負い、最先端技術を磨き続けている。安全性に対する品質の高さが評価され、N700系新幹線のブレーキ部品も製造している。さらに、最新工作機械の導入にも積極的だ。1台数千万円もする高性能工作機械を思い切って何台も導入し、グローバルに競争できる環境をつくり続けている。

また、年々競争が激しくなっている自動車エンジンのための試作部品製造も請け負い、最先端技術を磨き続けている。安全性に対する品質の高さが評価され、N700系新幹線のブレーキ部品も製造している。さらに、最新工作機械の導入にも積極的だ。1台数千万円もする高性能工作機械を思い切って何台も導入し、グローバルに競争できる環境をつくり続けている。

最新の同時5軸制御マシニングセンター

最新の同時5軸制御マシニングセンター

高橋氏に、「社員にどのようになってもらいたいか」という質問をぶつけてみた。すると、間髪入れずこのような回答があった。

「仕事を好きになってもらうことです。仕事ほど楽しいものはありません。仕事によってお客様が喜び、同僚が喜び、家族が喜び、地域社会が喜ぶ。自分の仕事によって多くの人に喜んでもらえるなんて、趣味では味わえない醍醐味です。その醍醐味を知れば知るほど、仕事は楽しいということがわかってきます。自分のために働くと、仕事はつまらなくなります。そしてつらくなります。しかし、人のために働くと、必ず喜びが生まれるのです。社員全員にそうなってもらうため、私ができることを精一杯行い、社員のために仕事をしたいと考えています」(同)

仕事を好きになり、楽しく、誰かのために働く――。これこそが、カルモ鋳工の成功の秘密なのだ。

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